隠キャの復縁大迷走。
「あー、辛い。辛すぎる。」
そんな言葉を吐きながら1人、帰路につく。
(全てこの漫画のせいだ!)
心中、穏やかではない。
こうなるのなら本屋になんてよらなければよかったと悲観しながら自分の過ちに後悔していた。
それは帰りがてら駅前の書店に入り、太宰治の『人間失格』を探していた僕に降りかかった災難であった。
その本屋は縦に長くなっていて、漫画コーナーを突っ切らなければ書籍コーナーにいけない構造になっている。漫画は分け隔てなく好きだ。もちろん少女漫画だって好きだ。絵は繊細で何より純粋だ。読んでいてこんなことあるわけがない。非現実的だとバカにしながらも、こんなことがあればいいと心の底から願い、イケメンになって愛する人にくさすぎるセリフを吐きたいと願いながら読み入ってしまっている時が多い。そのあとは大抵、心が綺麗に浄化されている。
漫画コーナーの最近のイチオシ!という見出しの下に近々、実写映画化した漫画が綺麗に並んでいた。
その漫画の試し読みが置いてありそれを数分立ち読みしていた。
漫画の絵はすごくよかった。女の子たちの顔や目はとても可愛いく、男はイケメンだらけだ。
簡単にその漫画の内容をいうと、未来の自分から現在の自分宛に手紙が届くことが始まりだ。その手紙に記されていたのは転校してしてきて仲良くなった少年が自殺してしまうからそれを止めてくれという話だ。馬鹿げていると思った。人の死を甘く見るなと思った。そんなことできたら僕にだって
「ある少女を守れ」
と記された手紙が届くはずだ。
(くそ。ふざけている。)と思いながらもその漫画を最初から最後まで買ってしまった。
太宰治のことなんて忘れきっていた。
会計を終わらせ、出入り口のドアを思い切り引っ張ると同時に僕の胸に女性が飛び込んできた。それがまずかったのだ。その人物は1週間前に別れた元カノ、大嶺 百合香(おおみ ゆりか)であったのだ。
彼女が顔を上げ目と目が合って1秒もしないうちにビンタされた。
「この浮気野郎!触んな!ヤ○チンクソ男!○ね!」
彼女は走って店を出て行った。
僕は周囲に痴漢と勘違いされながら店を出た。
ここで彼女と別れた理由の誤解を解いておきたい。僕が彼女と別れたのには主に3つの理由があるのだが、別れてから変な噂が広まってしまってこのような結果になったのである。
それは幼馴染と浮気していたというものであった。もちろんそんなことしていない。それこそ人間失格だ。それに世界一愛している君のことを裏切るなんてことは僕は絶対にしない。今でも君を愛してる。
じゃあなぜ別れたんだ?と思う人もいるだろう。
まぁ、おいおい話すつもりだ。
そんなこともあり現在、悲観と後悔に心を占領されていた。
この再会がきっかけで僕の戦いが始まってしまう。
もしこれに題名をつけるなら
「陰キャの復縁大迷走!」
だな。
うまく決まったと思いながら少し寒さが沁みる秋の帰路を1人で歩き始めた。